事業の持続可能性を高めるためには、自社を取り巻くさまざまな潜在的リスクを特定し、事前に対策を講じることが重要です。こうした緊急時に備える対策は「BCP」と称されます。本記事では、このBCPの意味や必要性、メリット、策定の流れなどについてわかりやすく解説します。
BCPとは
BCP(Business Continuity Plan:事業継続計画)とは、事業活動におけるあらゆるリスクに対する予防・復旧計画のことです。ビジネスにおいては、社内外のさまざまな要因によって事業継続が困難になるほどのトラブルが生じる可能性があります。BCPでは、そうした際に被害を最小限に抑え、事業活動を速やかに再開できるように対策を講じます。
BCPが想定している事態
BCPというと自然災害が真っ先に思い浮かぶかもしれません。しかし、BCPでは、自然災害以外にも多種多様なリスクを想定します。例えば、近年起こった新型コロナウイルスの感染拡大といったパンデミック(感染の爆発的拡大)に対する対応もBCPに含まれます。BCPにおいては自社の事業継続に脅威を与える数多くの可能性を想定し、各事態に応じた対策を立てることが重要となってきます。
特に、多くの業務においてITが利用されている現代においてITシステムに対するBCP対策を検討することはBCPを策定するうえで大変重要です。たとえば、大規模なシステム障害はサービスや業務の継続そのものを難しくすることもあります。また、自然災害によってシステムが稼働しなくなったり、データが消失してしまったりする可能性もあります。こうした想定される脅威におけるさまざまなIT関連のリスクを想定し、あらかじめデータの定期的なバックアップや、代替機の準備などできる限りの対策を講じることで、早期復旧・被害の最小化に努めることが大切です。
BCPの必要性
BCPが必要な理由を単純化すれば、企業が存在し続けるためには事業継続が不可欠だからです。理由は何であれ、事業が停止してしまえば、その時間発生するのはコストばかりで利益は出ません。しかも、ここで失うのは財務的な健全性だけでなく、自社の対外的な信用である場合もあります。
というのも、自社の事業が停止すれば、その影響は取引先や顧客にも及びます。「必要な商品が届かない」、「いつも利用しているサービスが使えない」などの不便や不満は、後々の顧客関係・取引関係を悪化させる可能性があります。
これは自然災害のような、自社には過失のないトラブルについても例外ではありません。自社が災害からの復旧にてこずっているあいだに競合他社が通常通り事業を再開していたら、顧客は自然とそちらに流れてしまうでしょう。逆に競合他社がまだ問題を解決しようとしているあいだに、自社が事業を再開できれば、そこで大きなアドバンテージを得られます。
もちろん、従業員や顧客の健康や安全などに配慮しない経営をおこなっていると、法律に抵触する可能性があるというのも重要な視点です。
このような理由から、企業は平時からBCPに取り組み、いざというときに一刻も早く事業を再開できるようにすることが必要です。
BCP策定のメリット
BCPは基本的に上記の必要性から策定されるものですが、これに取り組むことで以下のような副次的効果も期待できます。
経営戦略に役立つ
BCPの策定においては、自社の潜在的なリスクを特定するために、事業や業務全体を詳しく調べる必要があります。その際には、自社の日常業務における非効率性なども発見できるため、業務改善などに繋げられます。
また、災害時にどこから復旧するべきかという優先順位の把握は、自社の事業や業務を形成する中核が何かを見直すことでもあります。その結果、経営戦略上の優先課題や注力すべきポイントを可視化できるので、事業の効率化やスリム化に活かせるでしょう。
企業価値が高まる
BCPの必要性と関連して述べたように、さまざまなリスクに対応できるように備えることは自社の社会的な信用にかかわります。取引先や株主からしてみれば、相手がBCPを策定しているかどうかは自分自身の利害にもかかわる問題です。そのため、BCPを策定して、緊急時の備えも十分にできていることをアピールすることは、企業の対外的な評価を高めることにつながります。
また、従業員側としても、自社がBCPを策定しているかどうかは自社に対する信頼感や安心感につながる問題です。たとえば、災害時の避難経路が確保できているか、労働事故に対する予防策が十分に講じられているかは、従業員の身の安全に直結します。つまり、BCPを策定することは、会社が従業員に対して配慮している証拠でもあるということです。
このようにBCPの策定は自社が社内外から信頼を勝ち取り、企業価値を高めることにつながります。
BCP策定の流れ
続いては、BCP策定の流れについて順を追って解説します。
方針の確認
最初のステップはBCPの基本方針を確認することです。自社の経営理念やビジョンも考慮に入れて、自社にとって守るべきものとは何かを明確化しましょう。基本的な方針をはっきりさせることで、「方針を阻害する要因とは何か」「緊急時には何を優先して考えるべきか」など、個別的な問題も考えやすくなります。
推進体制の整備
次のステップはBCPの推進体制を整備することです。BCPはあらゆる部門、あらゆる従業員にかかわります。そのため、BCPを策定する際には部門横断的に人材を集めてプロジェクトチームを編成しましょう。緊急時に必要な協力会社や、重要な取引相手と連携するのもおすすめです。また、BCPは従業員全体に共有される必要があるので、情報の周知体制も併せて構築しましょう。
事業・業務の分析
続いては、事業や業務の現状を見直し、そこに潜むリスクやその影響度などを分析します。複数の事業展開をしている場合は、保護すべき優先事業の特定も必要です。優先度の基準としては、「売上高」「顧客数(影響範囲)」「復旧作業の緊急性」などが考えられます。
すでに説明したように、BCPを策定する際には、自然災害だけでなく、情報セキュリティや労働事故、不祥事など幅広い視点からリスクを洗い出さなければなりません。とはいえ、事業に与える影響度や発生確率が非常に小さなリスクについては、あえて放置するのもひとつの方法です。なお、すでに安全対策などが施されていることについても、この機会に改めてその有効性を見直すとよいでしょう。
対策の検討
BCPの対象となる脅威を特定したら、さまざまなシミュレーションをおこない、その脅威が実際に発生した場合の具体的な対策を考えます。
まず重要なのは、緊急時の指揮系統や連絡先、連絡手段などをはっきりさせることです。BCPを発動させるのは誰でしょうか。緊急事態が発生したとき、従業員は真っ先に誰(どこ)へどのような方法で連絡すべきでしょうか。これらを明確化しておくことで、緊急時にも組織的に統制の取れた動きがしやすくなります。
実際の対策内容については、想定されるリスクに応じて多種多様です。たとえば、IT関連リスクに対しては「データのバックアップ方法やスケジュールを決定する」、「複数の同じシステムに常に同一のデータが保持されるよう、データの冗長化を図る」、「いざという時にリモートワークへ移行できるよう、リモート環境の構築やセキュリティを強化しておく」などが考えられます。自然災害などのリスクに対しては「従業員の安否確認システムを整備する」などが考えられます。
BCP策定後の取り組み
BCPにおいて大切なのは、緊急時に機能して的確に対応することです。このため、BCPの実効性を高めるためには、策定後にも以下のような継続的な取り組みが必要になります。
運用・見直しをおこなう
BCPの策定後も、実際にテストや運用を繰り返しながら見直しを図ることが必要です。というのも、策定したBCPが必ずしも有効に働くとは限らないからです。
いざ運用してみると自社の業務体制にそぐわなかったり、緊急時に役に立たなかったりする可能性は排除できません。また、自社の経営状況や社会情勢、技術の進歩などに応じて、想定されるリスクやその解決方法などに変化が生じてくることも考えられます。したがって、BCPの策定後も定期的にテスト・評価・改善し、継続的に対策の有効性を高めていくことが大切です。
浸透・定着させる
BCPを策定しても、その情報がプロジェクトチーム内でしか共有されていなければ宝の持ち腐れです。そのため、策定したBCPは全社的にしっかり周知し、社内に定着させましょう。
いざというときにBCPに従って迅速に行動を取れるようにするには、教育や訓練などをおこなうことが重要です。訓練の仕方としては、防災訓練や避難訓練など実際の行動を伴うものもあれば、ディスカッションなどによる机上の訓練も考えられます。また、ITシステムにおいてはシステムダウンした時の復旧手順、対応の確認や、予備システムへの切り替え訓練を実施することも有効です。こうした教育や訓練を定期的に実施することで従業員のBCPに対する意識を高められます。
まとめ
BCPとは、ビジネスを取り巻くさまざまな脅威に対して講じられる対策です。BCPを策定する際には、自然災害だけでなく、業務上の事故、財務問題、コンプライアンス違反など、さまざまなリスクを想定する必要があります。
なかでも近年重要になっているのが、IT関連のリスクです。デジタル化が進んでいる現代では、システムや機器の不具合が業務やサービス全体をストップさせてしまう可能性は無視できません。
こうした事態に備え、BCP策定の段階でバックアップシステムの構築やシステムの冗長化といったシステムの継続稼働のための対策を組み込んでおくことが大変重要です。また、BCPの策定後も従業員の教育や訓練を定期的に実施することでBCPの意識を高めることにつながります。いざという時に迅速に対処することができるよう会社全体でBCPに取り組んでいきましょう。
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